近年、工学と芸術を関連づける大学が幾つか見られるようになりました。九州大学芸術工学部、東北芸術工科大学、神戸芸術工科大学等がその例です。しかし 理学と芸術を結びつけようとする動きは大学という単位ではまだそれほど活発化しておらず、理学の人間にとっては自らの存在価値を広げる大きなチャンスでは ないかと考えています。
筆者は東京工芸大学芸術学部において主に物理学、数学、情報を教えており、理学と芸術をうまく結び付けられないかと考えています*。 授業では芸術に直 接関係のある音、光、色の話だけではなく、相対論における時間の遅 れ、量子論における確率解釈の話、宇宙や元素合成の話などをすると、学生たちの食いつきは思いのほか非常に良いのです。名作アニメ「銀河鉄道999」など の作者松本零士氏が佐藤文隆、松田卓也著のブルーバックス本「相対論的宇宙論」から多くのアイデアを得たという事実を学生に伝えたこともコンテンツ系の学 生をひきつけたのかもしれません。また、数学の授業においても様々なシンメトリーと美しい形、フラクタルと形、エッシャーの話などをしますと、課題提出の 際には非常に綺麗なシンメトリーのある絵を提出してきます。他にも無限の話など、探すと結構色々話題はあります。
これらの授業を行う上では、授業を講演会のように仕立て上げ、ビジュアル的に学生をひきつける映像資料を準備する事も重要であるようです。単に相対論や 量子論における物理学の真実を述べても学生はついてこないようです。しかしながら、「この世界はどのようになっているのか」と言う事を知りたいと思う感情 は、芸術とも通じるものがあるので、相対論や量子論もそのあたりを工夫していくと良いようです。私たちが芸術に関心があれば、理学は芸術と相性が比較的良 いようです。理学と芸術の距離を短くする努力をしていく事によって、物理学はより魅力的な学問としてさらに人々に受け入れられるのではないかと考えていま す。
* 参考文献:自然科学における芸術の活用と芸術における自然科学の活用 東京工芸大学芸術学部紀要「芸術世界」第11号 2005