先進科学塾

  藤田順治 「先進科学塾」

2003年3月に、名古屋市にある大同工業大学で、核融合科学研究所に続いて第2の定年を迎えるにあたり、何か世の中のお役に立つことは無かろうかと、 それまでもお付き合いのあった名古屋市科学館の山田吉孝学芸員に電話をした。受話器から「実はちょうど来年度から、理科に興味と関心を持っている高校生を 対象に、楽しい実験や装置作り、自由な討論をとおして、理科の面白さを体験し、持てる力をもっと伸ばしてもらおう、という企画があるのです。ぜひ参加して ください!」と、明るい声が返って来た。
子供の頃から、ものを壊したり作ったりするのが好きで、実験物理に進んだ実験大好き人間にしてみれば、これに乗らない手は無い。名古屋大学プラズマ研究 所時代に、伏見康治所長が、プラズマを理解するには電磁気をちゃんと習得していなくてはならないと、若い助手や技官の方々を対象に始められた「楽しい電磁 気」をお手伝いしたときの装置作りや、これをもとに大同工業大学で電磁気の講義に「Lecture Demonstration」を取り入れた経験を活かす絶好のチャンスとばかり、一も二もなく参加することにした。
それ以来「核融合研究アーカイブズ」の仕事とともに、名古屋市科学館で「先進科学塾:Advancing Science Workshop」と銘打ったボランティア活動に参画している。これまでの活動については 先進科学塾のホームページを参照されたい。

この活動の中で、いくつかの問題が浮かび上がってきた。まず、退職組を含めた高校理科教師の仲間達と議論を重ね、独りよがりにならないように充分気をつ けて始めたにもかかわらず、思ったほど高校生が集まらない。もともと、1回限りの科学の祭典や理科教室では不十分で、毎週1日、6回で一つのテーマをこな すような継続性を持たせようという企画ではあったが、高校生はよほど忙しいのか、受験勉強に役立たないと思っているせいなのか。せっかくの企画なので、1 日コースも開設し、社会人も対象に含めることにした。今では女性も含めて熱心な社会人で賑わい始めた。それにしても、嬉々として話を聞き、実験や工作に夢 中になっていた小学生が、なぜ中学、高校と、成長とともに興味を失っていくのであろうか。高校生相手では手遅れとばかり,世の母親達に科学の面白さを体験 してもらい、家庭での会話をとおして子供達の科学に対する理解を深め、興味持ち続けてもらおうと考えている。
最近は情報過多のせいか、物事に感動することを忘れている人が多い。芸術に限らず、物理の世界でも「本物」に接することは非常に大切である。たとえ初歩 的な物理実験でも、自分で装置を作り、実験をして、それなりの結果が得られたときの感動は何ものにも代え難い。大学での講義に採り入れたデモ実験でも、こ のことは実証されていると考える。

次の問題は、大学人が如何に高校の実態を知らないかということである。科学塾の準備や本番が終わったときの呑み会で、先生達の本音を聞く機会ができた。 意欲に燃えた若い教師が、情熱を失い、職場を去っていく実態、要領よくノルマを果たして終わる無気力教師の多さ、改革が極めて困難な教育の場、良心的な教 育をするには時間が絶対的に不足、等々。では、どうすれば良いか。事態をより客観的に調査することの得意な方、教育制度の改善に発言力をお持ちの方、現場 で一緒になって活動する力に満ちた方も多いと思う。自分でできることは何かを考え、役割分担をはっきりさせた上で実行に移すことが緊急の課題である。 2005年日本物理学会年次大会の総合講演「物理教育はどこへゆくのか」での笠耐先生の一言「大学の物理教師は、本当にどれだけのことを高校にしてきただ ろうか!」が脳裏を離れない。(2005.11.25)

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