Nuclei, The Playing Fields of Physics
(Hyperfine Interactions Vol.21(1983);Scientific Publ. Co., Basel)
1985年に上記 title の Festschrift を出版しました. 学術誌「Hyperfine Interactions」の特集号として出版されたものの別刷りとして装丁をも改め非売品として印刷したものです。 阪大・杉本グループによる鏡映核磁気能率の測定、および、東大・山崎グループによる210Poアイソマー磁気因子の測定、という二つの独立な実験による核内中間子効果の実証という輝かしい研究成果を挙げ、それを機に両グループの連携が始まりました。
その時に杉本先生の還暦祝として出版したものでした。 この出版に際しStanford大学のProf.S.Hanna が上記のtitleをつけて下さいました。“The Playing Fields” というのは 英国Eton校の競技場を指す言葉で、英国の著名なリーダーを多く育てた立派な「教育の場」として称える意味があると教わりました。杉本・山崎グループが開拓した「研究の場」は日本の原子核研究に於ける ”Playing Fields”の役割を果たしてきたと考えています。
杉本先生はこの本を大変お気に入りで「 Festschrift 」と名づけられ、また20年30年後に第2版を作ろうと言って居られました。20年後30年後の原子核研究の発展を期待してのお気持ちでした。先生が90歳になられる年に、今度は卒寿のお祝いに出版したいと考え関係者に執筆をお願いするなど準備を進めていたところ、後数ヶ月で卒寿を迎えられるという2012年の秋に冥界に去られました。 今年にはその後の30年史を書こうと提案しましたところ、皆さんのご賛同を得ることができました。この30年の進歩は著しく、素粒子から物性物理学•化学•生物学医学など、原子核の隣接分野にも広がって展開した皆さんの活躍を振り返ると感動的な歴史です。 この30年史を記す文集を「Festschrift II」と呼ぶことにします。この30年にわが国の原子核研究者が新しく拓いた道程を示す記録になると考え、特に、グループの機関誌である「原子核研究」誌の特集号として出版致します。さらに、これまで原稿の収集と編集、執筆者相互の連携などの目的で、アルス文庫を利用してきましたが、「原子核研究」誌編集委員会のご了解を得て引き続き掲載することによりWEB上に公開することに致しました。以下をご覧下さい。
Festschrift-II
Particles and Nuclei,
The Playing Fields of Physics
- 序: Nuclei, The Playing Fields of Physics
- 1. 原子核研究30年史:NUMATRON→JHF→JPARC
- 1.1 中井浩二 幻のニューマトロン計画が拓いた核物理の地平
- 1.2 山崎敏光 第2世代粒子と遊んだ30年 – 杉本先生とこの30年
- 1.3 石原正泰 JHP計画成立への軌跡(1990-1997年)
- 1.4 永宮正治 杉本先生との半世紀
- 1.5 谷畑勇夫 核構造と元素合成の理解へ向けて
- 1.6 土岐 博 原子核を核力から作る -パイ中間子のすごさと難しさ-
- 1.7 田中万博 大強度ビームハンドリングとJ-PARC計画の建設
- 2. 高温高密度核物質:高エネルギー原子核実験
- 2.1 浜垣秀樹 高エネルギー重イオン衝突と見果てぬ夢
- 2.2 延与秀人, 関本美知子 杉本健三の孫弟子達の彷徨記
- 3. 中間子科学・ストレンジネス核物理:第2世代粒子の物理
- 3.1 永嶺謙忠 ミュオン核物理の現状と将来
- 3.2 田村裕和 ストレンジネス核物理
- 3.3 永江知文 重イオン研究からハイパー核研究へ
- 3.4 佐藤朗,中井浩二 偏極ハイペロン・核子散乱
- 4. 不安定核物理:理研の原子核研究
- 4.1 石原正泰 杉本先生と理研の原子核研究
- 4.2 田中万博 杉本先生とアイソトープセパレーターの思い出
- 4.3 谷畑勇夫 不安定核ビームによる核構造研究の夜明け頃
- 4.4 池田清美,堀内旭,土岐博 杉本先生とその後の核物理の発展
- 5. 加速器開発:開発と応用<<<<<
- 5.1 平尾泰男 阪大理学部⇒東大原子核研究所の思い出
- 5.2 佐藤健次 シンクロトロンでは電源良ければ全て良し- HIMACからJ-PARC/MRへ
- 5.3 熊田幸生 小型サイクロトロンへの挑戦
- 5.4 村山秀雄 核医学用計測器の今昔
- 6. 超絶技能実験:杉本スクールの伝統
- 6.1 増田康博 超冷中性子とEDM
- 6.2 久野良孝 ミューオンが電子に転換する過程を探索して -COMET実験-
- 6.3 南園他 超微細相互作用と β-NM(Q)R で進めた研究
- 6.4 越智志郎 Li薄膜中で動的偏極させた短寿命べータ放射核のNMR
- 6.5 田中正義 スピン ー 核物理から生命科学へ
- 7. 教育と伝統:科学と社会
- 7.1 髙橋憲明 自然科学の教育活動
- 7.2 水野義之 杉本先生の物理学と「教育」の役割
- 7.3 中井浩二 中之島時代の杉本先生
- 結び: 杉本語録と、孫娘Nina さんの杉本先生像
- 杉本先生:履歴
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杉本記念シンポジウム
上記の文集「Festschrift II」編纂の途上にシンポジウムを開催しました。
日時:2013年4月6日〜7日 会場:阪大理学部D棟501号室 参加者:63名
- プログラム
- 中井浩二 はじめに
- Session I:高エネルギー実験分野 への進出
- 永宮正治 杉本先生との半世紀
- 三明康郎 高温高密度核物質 – 理論と実験計画
- 浜垣秀樹 強結合QCD物質のはなし
- 以下は、シンポジウムに於ける講演者のプレゼンテーションの収録です。
Session II:第2世代素粒子(s、μ)
Session III;加速器科学の進歩
- 中井浩二 はじめに
- 参加者集合写真(クリックすると拡大、更にクリックすると各部の拡大が見られます)
- 写真は、第2次大戦後占領軍によって大阪湾に放棄された旧サイクロトロンに代わって菊池•朝永先生らのご努力により再建されたわが国戦後初のサイクロトロンの記念碑として屋外に移設されたマグネットを取り囲んで撮影したものです。
- 背景の木々の間に杉本先生の設計•建設指揮によるバンデグラフ実験室の塔が見られます。
Session IV:スピン物理
- 南園忠則 超微細相互作用とβNM(Q)Rで進めた研究
- 福田光順 反応断面積と核子密度分布
- 石原正泰 杉本先生と理研の重イオン研究
Session V:次世代への期待
- 田中万博 大強度ビームハンドリングとJ-PARCの建設
- 田村裕和 ストレンジネス核物理
- 久野良孝 フレイバー物理
- 田中正義 スピンー核物理から生命科学へ
- 増田康博 超冷中性子とEDM
Session VI:まとめ
- 土岐 博 杉本先生とその後の核物理の発展
- 谷畑勇夫 核構造と元素合成の理解へ向けて
NHK朝の連続テレビ小説『花子とアン』についていろいろと調べているうちにこのサイトに行き着きましたが、杉本先生と村岡光男先生とはどのようなご関係だったのでしょうか。お差支えなければご教示いただければと存じます。特に、杉本先生が大阪大学にいらしたと思われるころに村岡先生が池田市に在住され、そこに村岡花子さんが訪問されるくだりが原案となった『アンのゆりかご』に見られます。
杉本先生と村岡先生は、大阪大学においてそれぞれ実験と理論の分野でわが国の原子核物理学の研究を推進し、多くの後進を育てられました。1988年には両先生の共著になる教科書『原子核物理学』(共立出版)が出版されました。
戦前に優れた研究成果を挙げた日本の原子核研究を、戦後に復興する努力の中で生まれた東京大学原子核研究所は菊池正士・朝永振一郎先生のご努力によるものでありましたが、日本全国から集った新進気鋭の若手研究者の中で村岡 (当時は旧姓佐野)先生と有馬朗人先生は理論研究部の輝く存在でした。
その後、杉本先生が居られる大阪大学に移ってから村岡先生は杉本グループの実験と結んで原子核構造の研究を究めるうち、杉本先生らの実験グループが提唱した高密度核物質や不安定核の研究に理論的側面から一層強い協力関係を結び今日の原子核研究の基礎を築かれました。 (中井浩二)